第一章 アルベール(1)

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 アルベール・キスア。  コルデリア伯爵家に仕える、ニコルの従者だ。  髪と、切れ長で二重の双眸はどちらも曇りの無い漆黒で、白皙がよく映える。  その姿は従者とは思えぬ気品を感じさせる。  アルベールは一体幾つなのか分からない。  ニコルが聞いても、「ニコル様よりは年上ですよ」とはぐらかされてしまう。  しかしニコルも無理矢理聞き出そうとは思わなかった。  その不可思議さが、彼の魅力の一端でもあったからだ。  彼はニコルが物心がついた頃から屋敷に仕え、以来、ずっとニコルの従者を務めている。  屋敷の中では肉親以外で唯一、心を許せる存在だった。  アルベールはいつものように棚にいくつも置かれた蝋燭を回収する。  蝋燭は全て特注でニコルが眠る時間に合わせて火を灯され、朝日が昇る頃にちょうど消えるように設計されていた。  ニコルは物心がついたときから闇に対する極度の恐怖心があった。  何度か克服しようと試みたが、明かりの一切無い場所にいると闇が迫ってくるようで、息が出来なくなり、意識を失ってしまうのだ。  それで何度医者の厄介になったか知れず、十六歳になった今でも、蝋燭が就寝前の必需品になっていた。 「夢を見られたのですね」  ニコルの顔を一瞥しただけで、アルベールはすぐに気づく。 「失礼いたします」 「……ん」  アルベールがハンカチを取り出すと、ニコルは目を閉じる。  肌に柔らかなシルクの柔らかさが触れ、頬から額を優しく撫でるように汗を拭ってくれた。  アルベールのつけるコロンの清涼な香りにうっとりする。 (良い香りだ)  このまままたとろとろと甘い眠りの中に落ちてしまいたくなる。 「朝食はどうなさいますか。こちらに運びましょうか」  アルベールが離れていくことに一抹の寂しさを覚えた。 「お母様は?」 「奥方様は今日は早くお目覚めになられまして、食堂で朝食をと……仰せです」 「なら、僕もご一緒するよ」 「かしこまりました」 「アル。お湯と布を持ってきて……。汗をかいているから」 「ただちに」  アルベールはそっと頭を下げ、退出していく。
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