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着替え終わったニコルは部屋を出る。
深い緑のジャケットにベスト、シャツ、白いパンツという学院の制服姿だ。
「失礼いたします」
次の間で控えていたアルベールがそっと片膝を折り、襟の歪みやネクタイを入念に直してくれる。
ニコルは同年代よりもやや背が低く、百六十五センチほどしかない。
アルベールは百八十センチを越える上背があった。
「ニコル様は今日も凛々しくおありでございます」
「ありがとう」
アルベールが優しく微笑むと、ニコルも嬉しくなって口元を弛める。
終わると、ニコルが前を行き、アルベールが数歩あとに続く。
二階の自室から一階の食堂の前に到着する。
アルベールをちらっと見る。
彼は優しい笑顔を見せたまま部屋に入ろうとはしなかった。
母はアルベールを嫌っている。姿を見るだけで苛立ち、不機嫌になってしまうのだ。
「お母様、おはようございます」
紅茶を頼んでいた女性が顔を上げた。
「あら。ニコル。おはよう」
レティツィア・フォン・コルデリア。
ニコルと同じように鮮やかな金髪を今はゆるやかに頭の上に巻いている。
頬に影が落ちるほどに長い睫毛に、切れ長の緑色の瞳をもった知性と気品に溢れた女性だ。
かつては舞台女優を務め、称賛の声を浴びたと言うだけあってその美貌は今尚、健在である。
ニコルは近づくと、レティツィアは柔らかな笑みを見せて、そっとニコルの頬にそっと口づけをする。
ニコルも母の頬に口づけを返し、席に着く。
朝食がテーブルに並べられる。
甘い香りをたてる焼きたてのパンに紅茶、種々の果物、ゆで卵などだ。
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