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ニコルは言う。
「今日はご機嫌がよろしいんですね」
「ええ。珍しく目が覚めて」
レティツィアは朝にあまり強くない。
母子二人きりの朝食。
ニコルにとってレティツィアは唯一の肉親だった。
父、ジェイドはニコルがまだ幼い時に馬車の事故で亡くなったらしい。
らしい……というのはその頃はまだニコルは幼く、そのことはもちろん、父親の顔や、どんな人柄であったかも覚えていない。
ただ玄関広間に飾られた父親の肖像画が唯一生前の姿を忍ばせるものだったが、ニコルはそれがあまり好きではなかった。
線の細いニコルとは似ても似つかぬほど精力的な人物であったらしく、その眼差しはまるで猛禽類を想起させるように油断ない。
その眼差しに見つめられると、心臓がドキドキしてしまうのだ。
父の死によって爵位を継いでいるものの、学生である身の上ということでレティツィアが当主としての役割を代行している。
もちろん学生の身とはいえ、当主としての役割を務められないということではなかったが、母がそれを望んでいるということで従っていた。
「そうだ。学院の成績を見ました。優秀な成績で母は嬉しく思いますよ」
「ありがとうございます」
「あなたは栄誉あるコルデリア伯爵家の二十五代目の当主。このまま家名に恥じぬよう日々を過ごしなさい。それをお父様もきっと望んでおられましょう」
「はい、邁進(まいしん)いたします」
「ふふ。あなたは本当に私の天使だわ」
眩しそうに目を細めたレティツィアは愛おしげにニコルの顔に触れる。
ニコルはされるがままになった。
「そうだ。今日はお客様がいらっしゃいますからね。学校が終わっても寄り道はしないように」
「かしこまりました」
ニコルは小さく頷きながら、サクサクのパンを口にした。
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