恋のはじまり(投稿作品)

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一瞬、哀れみの視線を受けた気がしたが、周りを見ても気にされた様子もなく、皆自分のスマホを見つめるばかり。 次で乗れるはずだったのに、と思いつつ列を離れて駅員へ。案の定、この忙しいのに、と嫌な顔をされる始末。 結局、衝撃で液晶の割れたスマホを受け取り、満員電車に揺られて会社についたのは就業時間を1時間も過ぎたところだった。 『お前はいなかったから、適当に割り振ったから』 と、出られなかったミーティングでは一番面倒な作業が自分の担当にされている始末。 「もう、今日は何もやる気しない……」 机で突っ伏したところで、頭にひんやりとした感触を受ける。 「先輩、今日は災難ですね。それにしても酷いですね、色々」 くすっと笑われて顔をあげると、隣の席の新入社員の花木が苦笑しながら缶コーヒーを差し出してくれていた。 「後輩に缶コーヒー奢ってもらうとは、私もダメね……」 髪の毛をかきあげながら受け取ると「今日は特別です」と花木が言う。 「だって、先輩本当にひどいですよ。いつももう少しマシですよね」 「マシってなによ、マシって……」 言われて気になり、デスクの上の鏡をのぞく。髪の毛はぼさぼさ、ノーメイクで目の下のクマも毛穴も見えたまま、唇は色味もなく、シャツの襟は崩れてる。本当にひどい。 「あと、先輩、靴、大丈夫ですか?」     
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