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第三章 いま、自分にできること
「おはよう、スフィア」
翌日、リオンは席につくと、隣で本を読んでいるスフィアに挨拶した。
その声に、周囲がざわっと反応した。好んで落ちこぼれに話しかける奴が珍しいようだ。
「……おはよ」
虫の羽音みたいなか細い声で応じた。クラスメートはどうかわからないが、リオンにははっきり聞こえていた。
頬を緩め、椅子ごとスフィアに近づく。
「『魔法薬学』の分野で、わからないとこがあるんだ。教えてくれよ」
悪びれる様子もなく積極的に話しかけてくるリオンに、スフィアは動揺を隠しきれないでいた。
今まで、好き好んで自分に接してきた人などいなかったからだ。あるとすれば、それは侮蔑と嘲笑。
だが、この少年からそんな感情は一切見えない。一体、何を考えているのか――スフィアは、まるで未知の生物と遭遇した気分だった。
当然、クラスメートからは奇異の視線が注がれ、ひそひそ声もあちらこちらで聞こえてきていた。
「……あんた平気なの?」
この学院に来る生徒のほとんどが、貴族出身の高貴な身分。プライドも高いだろうし、嫌な視線を浴びることにも慣れていないはずだ。
「ん? 何が?」
だが、リオンはあっけらかんとして言う。
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