第三章 いま、自分にできること

1/11
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ

第三章 いま、自分にできること

 「おはよう、スフィア」  翌日、リオンは席につくと、隣で本を読んでいるスフィアに挨拶した。  その声に、周囲がざわっと反応した。好んで落ちこぼれに話しかける奴が珍しいようだ。  「……おはよ」  虫の羽音みたいなか細い声で応じた。クラスメートはどうかわからないが、リオンにははっきり聞こえていた。  頬を緩め、椅子ごとスフィアに近づく。  「『魔法薬学』の分野で、わからないとこがあるんだ。教えてくれよ」  悪びれる様子もなく積極的に話しかけてくるリオンに、スフィアは動揺を隠しきれないでいた。  今まで、好き好んで自分に接してきた人などいなかったからだ。あるとすれば、それは侮蔑と嘲笑。  だが、この少年からそんな感情は一切見えない。一体、何を考えているのか――スフィアは、まるで未知の生物と遭遇した気分だった。  当然、クラスメートからは奇異の視線が注がれ、ひそひそ声もあちらこちらで聞こえてきていた。  「……あんた平気なの?」  この学院に来る生徒のほとんどが、貴族出身の高貴な身分。プライドも高いだろうし、嫌な視線を浴びることにも慣れていないはずだ。    「ん? 何が?」  だが、リオンはあっけらかんとして言う。     
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!