それは、夢

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わたしは家人に気づかれないよう、そっと歩きました。 回廊がありました。 庭をかこむ、四角い廊下。 その廊下を歩いているとき、まがりかどで、ちょうど女の人と鉢合わせしました。五十代くらいのおばさんです。 わたしを見ると、おばさんは悲鳴をあげて腰をぬかしました。ゆかをはって逃げるのです。 そのようすが、おかしくて、わたしも這って、追いかけました。蛇がエモノを追いつめるように、わざと、ゆっくり。 おばさんは障子をあけて、部屋のなかに入ってしまいました。 残念。逃げられた。 でも、楽しかったので、わたしは、わざと怖がらせるために、回廊を這いずりました。 何度も。何度も。 夜が明けるまで。 わたしの体が長く伸びて、ずりずりと廊下をこすります。這いながら、わたしは高笑いをあげていました。 そのお屋敷には、その後も、くりかえし遊びに行きました。 二年が経ちました。 わたしは友達に誘われて、友達の親戚の家に泊まりに行きました。 山奥の……見おぼえのある風景。 わたしの胸は、ざわめきます。 ここは、まさか……? そのまさかでした。 間違いなく、あのお屋敷です。 断言します。 わたしは、それを夢だと思っていたのです。     
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