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トットットッ...。
蒸し暑い夏の夜の人気ない裏路地を男は1人、歩いていた。
目は虚ろで、半袖短パンにサンダル、それ以外は何も身につけていない。
嫌に涼しげな風が男の足をゆっくりと撫でるように吹き抜ける。
「・・・あれ、俺なんでこんな所に」
目に光を取り戻した男は辺りを見渡す。
街灯は数本立っているが光を灯していない。
道を照らすのは僅かな月の光のみ。
「それにしても、暑いなぁ・・・」
足を止めていると後ろから足音が聞こえてきた。
振り返って見ると思わず男はひっ、と情けない声を発した。
そこには顔は青白く、裸足で全身びしょ濡れのスーツ姿の男性が虚ろな目で歩いていた。
そしてそのまま男を気にすることなく通り過ぎていった。
「な、なんなんだ」
「おやおや」
急に背後で声が聞こえ、又しても情けない声とともに今度は振り向きざまに尻餅をついた。
「だ、誰だ婆さん!?」
「かわいそうに。はい、これ」
腰の曲がった白髪の老婆は手鏡を渡し夜道の中へ消えて去った。
「なんだったんだ・・・?」
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