ストーリー ストーリー

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 ここ数年、わたしは一体何人の人から、「困ったら相談に乗るよ」、「話、聞くよ」、「何でも言いなよ」って言われただろう。ありがたい!!胸にジーンと沁みる、そういう優しさ。わたしの周りにいた人たちは、なんて、温かいんだろう。そして心強いんだろう。そおっと、そおっと包み、そして、しっかりと支え続けてくれている。どうしてこんなにいい人たちに囲まれているんだろう。そういう人たちに対して、わたしは胸を張れる人間でいよう。そういう人たちに応えられる人間でいよう。 「鉄は鉄によって研がれ、人はその友によってとがれる」…だったかな?昔、由利さんがペンションで、教えてくれた言葉がふっとよみがえった。そうか、そうだね。なんだか今、その言葉の意味がぐっと胸に迫ってきた。    「何だかありきたりのことしか言えないけれど」  と、鍵さん。  「そんなことないよ。嬉しいよ、ありがと」  「じゃ、くっぴー、元気でね…」    鍵さんは、昔と同じ、めちゃくちゃいい笑顔でわたしを見て、ちょっとだけ手を上げた。そしてまた、さっさっさっと早足で、シルクセンターへの信号を渡って行ってしまった。    わたしは、その姿を見送りながら、やっぱりわたしはこの人の事が好きなんだ、と思った。  「鍵さあーん!!」  わたしは、信号を渡り切った鍵さんに向かって叫んだ。鍵さんは、こちらを向いて、大きく手を振ってくれた。わたしも、思いっきり手を振る。建物の灯りに照らされた鍵さんの姿は、とても包容力があって、頼もしく感じられた。      やっぱり、鍵さんはわたしにとっては、“特別”な存在だ。相変わらずあこがれの鍵さんなんだ。付き合ったのは三年ぐらいだったけれど、それは思いを共有し合った大切な時間だった。こんな素敵な人と一緒に過ごせた事に、胸が熱くなる。ありがとうの言葉だけじゃ足りないぐらい感謝している。そう思ったらどうしょうもなく嬉しくなった。    約束はしなかったけれど、篠宮さんの結婚パーティー、誘ってくれるかな?なんて、ちょっとだけ本気に考えた。この期待感、なによ、ティーンエイジャーに戻ったみたい。一人歩く駅までの道のりは、すごく軽やかだった。そして、なにかこの先に、思いもよらない素敵な出来事が…起こる…起こるかな?起こるといいな…。なんだか心の奥がくすぐったかった。
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