◇第三章 見えない獣

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 もう何度目になるだろうか。ホテルでは毎回、必ず鞭で叩かれ、その痛みを与えられることに対して怒りを抑えられない良樹に無理やり獣化を促す。そして最初の時と同じように、必ず半端な獣化状態で獣化を止めるよう命令された。本来なら絶対にやらなことだ。下着を脱ぎかけのままにしていろ、と言われているようなものである。羞恥を味あわされていることにも当然怒りがこみ上げ、それがさらに獣化のスピードを上げてしまった。その恥ずべき姿を晒したまま、数時間放置される。獣化を半端に止められるせいか、少し視界が歪むし、怒りのやり場がなかった。なんとか深呼吸で留めてはいるものの、このまま言葉で煽られでもしたら簡単にその身体はユキヒョウのそれに変貌するだろう。そのギリギリのラインを保たせるものは、ひとえにあの写真だった。さりげなく享がスマートフォンを手放す瞬間を探ったりもしたが、それに気付かれた上、「もうデータはクラウドに上げてあるんですよ」と脅しまで食らう結果に終わった。  やがて良樹が諦めや眠気から落ち着きを取り戻し、姿が人間に戻ってくると、拘束を解かれ、眠りなりシャワーを浴びるなりと自由を許される。それでも真に解放されることもなく、部屋から出る気力が湧かないことと、始発まで動けないために、諦めてベッドで一晩を過ごす。一刻も早くこの部屋を出たいとは思っても、路上で一晩を過ごせるような心境ではなかった。
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