◇第三章 見えない獣

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 今日も同じことが繰り返される。鞭で叩かれる場所は最初の一回を除いて全て服に隠れる場所になった。初夏に差し掛かって半袖のシャツを着るようになってから、腕や肩も避けて背中や脇腹に赤く浮き上がった傷が増える。それが三ヶ所も着く頃には、良樹の怒りは十分に獣化するだけのものになっていた。どこかで冷静な部分が怒っても悪い結果になるだけだと告げてくるが、怒りは止まらない。 「はい、止めてください」  と、まるでレントゲンの撮影のように気軽にそう命じられる。実際、変化を止めることは可能だ。幼い頃から言われ続けてきたように、公共の場での獣化というのは恥ずべき行為ではある。感情の高ぶりによるものはどうしても起こってしまうので許容とされるが、例えば喧嘩がヒートアップしたような時は、自分を律して人の姿のままでいる必要性があった。良樹はそういった意味でも自分の変化への対処が理解できている。今は悪い方向にしか作用していないが、従来の環境であれば歓迎されるスキルの一つだ。 「……ふ……ふ……」  静かに呼吸をする。新しい酸素が肺に満ちると、とにかく早くこの状態を終わらせることだけを考えられた。とにかくこの時間をやり過ごせればなんとかなるのだ。明日の朝一番から家に帰ったら、いつもの休日になる……そう考えて、ただ耐える。そのつもりだった。 「……本当、無様でいい感じですよ」
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