さよなら、花嫁。

｢これから、台風ひどくなりますよ｣

｢…台風、来てるんですね。どおりで雨風強いと｣

…知らなかったのか。

｢早く家に帰らないと、風邪ひきますよ｣

俺がそういうと、女性は明らかに顔が暗くなった。

｢ー…んです｣

｢はい？｣

少し俯きがちだった顔を上げると、女性は言った。

｢ー…帰る場所、ないんです｣

…えっと。

まさか、この東京に一文無しで来る人なんていないだろう。

着ている服もそんなにボロくないし、元からこういう生活をしている、という訳でもなさそうだ。

…詐欺？

俺みたいな騙されそうな男（自分で言うのもなんだが）に助けてもらったあと、お金を奪おうというのだろうか。

俺の中で色んなものが葛藤している。

…どうするべきか。