水面に踊る

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? 城崎の駅に隣接して作られた「さとの湯」はお盆を利用して訪れた観光客で賑わっていた。 賑わってはいるが混雑はしていない、つまりはちょうど良い人の入りの温泉だった。 客は皆、日々の仕事から離れた晴れやかな表情で歩いており居心地のいい雰囲気が街中に満ちていた。 斯く言う私もその一人であり、かの文豪たちが療養に来たと言う城崎で束の間の休息を享受するために来ていたのだった。  城崎温泉は長い歴史のある温泉だったが、七つある外湯を回っていくと近代化と観光地化の進行が見て取れた。 特に最初に訪れた「さとの湯」は洗練されたスーパー銭湯の様によく整えられており、現代の観光地として栄えているようであった。  「さとの湯」の受付と休憩所は一階、風呂場は建物の二階と三階にあり、三階部分は露天風呂になっていた。 露天風呂の隣には膝くらいの高さの石垣で囲われた風呂と同じくらいの大きさの浅い池があり、小さく波打つ水面からすると何かしらの水棲生物の住処となっているようだった。 池の中央にはあまり周囲と調和していない西洋のエンタシスの柱が空に向かって立っていたが、その設計思想は不明で何らかの意味を読み取ることはできなかった。 池の水は人工的に水質が維持管理されている様子で透明な水を通して池の底を見ることが出来た。 池の底には緑と灰色を混ぜた様な何とも形容しがたい澱の様なものがあり、時折見えない何かの水棲生物の動きによって巻き上げられていた。
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