アルバイト探偵

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 「叔父さんさっき『あ、アルバイトですよ。こんなちっぽけな探偵事務所では給料なんて出せませんが……』って言ってたけど」 「何だ瑞穂、給料が欲しいのか?」 「違うよ、そうじゃなくて……」 そう言ってはみたものの、俺は言葉に詰まって黙ってしまった。 「悪いな。何時か小遣いやるからな」 叔父はバツが悪そうに言った。 叔父の経営している探偵事務所があまり流行っていないことは解っていた。 それでも丁寧な仕事を評価してくれる人は大勢いる。 だから口コミが頼りだったのだ。  「そう言えば、もうすぐ蛍まつりだったな」 場の雰囲気を変えようとしたのか、叔父が突然口を開いた。 「うん、そうだよ。水質管理のために皆で頑張った甲斐があって、今年は多く飛ぶみたいだよ」 叔父に話を合わせるようにあれこれと考える内に、雑草取りや蛍の餌になるカワニナの育成などて頑張っていた子供の頃を思い出した。 だから毎年、この時期がくるとウキウキしてくるのだ。 今年もみずほと出掛けるつもりだ。 本当は男女関係の縺れなどの依頼より、動物捜しの方が嬉しかったりするのだ。 仕事の選り好みは出来ないと解ったはいるけど……  「なあ、瑞穂。アルバイトじゃなくて社員にならないか?」 「又その話? 仕事が忙しくなりそうだから?」 俺の問いに叔父は頷いた。 その手の話は叔父は良く言っていたから先手を打ったのだ。 「なあんだ。さっきの言葉はアルバイトじゃ物足りないってことじゃなかったのか?」 「えっ、そっちの話? 俺はてっきり……」 「高校辞めて手伝えってか?」 叔父は笑い出した。 「瑞穂の答えは決まっていたな」 「だって叔父さん『サッカーなんか辞めてずっと手伝ってくれ』って言うからだよ。俺はサッカー命なんだから」 そう、俺は中学時代はサッカー部のエースだった。 まだ高校の部活は始まったばかりだったけど、みずほのためにも頑張っていたのだ。 みずほは俺と同じ高校を選んでくれた。 本当はもっとレベルの高い学校に行ける実力があったのに…… だから俺は得意なサッカーでせめてもの恩返しをしようと思っていたのだ。
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