ボーンヘッド・木暮敦士side

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 CDが売れない時代にデビューシングルがいきなり大ヒットしたんだ。 それは、長年燻っていた俺達にチャンスをくれたマネージャーと、支援してきてくれたファンのお陰だった。 特に、ファンの皆にはいくら感謝しても足りないくらいだ。 皆それぞれ自主的に、俺達が売れる手段を考えてくれていたんだ。 ラジオや雑誌へのリクエストや、友人達へのアピールなんかで盛り上げてくれたからなのだ。 俺は昔から声量があると言われていた。 だからインディーズ時代にはその声にあった歌詞を考えてくれたんだ。 テンポの良いダンスミュージックから沁々泣けるバラードまで、俺達のオリジナルソングになってくれたのだ。 何時の間にか俺達はメジャーデビューに最も近いアーチストと言われる存在に成長していたんだ。 だからお礼の意味と、第二段の発売を記念しての握手会も兼ねていたのだ。 『新曲アピールするライブなら、もっとファンサービスしなくちゃね』 ヘアーメイクアーチストの妻にスキンヘッドを頼んだ時そう言わた。 独身ってことになっているけど、本当は妻帯者だ。 妻を安心させるために、本当は公表したい。 でも時期尚早だとマネージャーから口止めされていた。 だから俺は本当は悩んでいた気持ちを振り切って、此処に来る前にこの頭にして来たんだ。 (ファンの皆も知っているんだ。何も今更隠さなくても……) 俺はそう思っていた。 (あわよくば今日、打ち明けよう) そんな思いもあって、今朝妻に頼んだのだ。 (そうだ。俺はさっきこの頭になったんだ!! この頭がマネージャーの悪戯のはずがない……) 俺の脳が壊れさる音が聞こえた気がした。  妻は贅沢も言わず、何時も俺を支えてくれた。 結婚指輪さえも要らないと言ってくれた。 それもこれも俺を気遣ってくれたからだ。 独身で通っている俺の負担になるかも知れないからだ。 でも俺は、だから尚更お礼をしたかったんだ。 お揃いのリングを買ってやりたくなったのだ。  一通りの打ち合わせが終了して後、俺はホッとしていた。 いきなりこの頭を見た時のメンバーの反応を気にしていたからだ。 『格好いいよ。うん、これなら皆驚くな』 そう言ってくれたのは幼馴染みの原田守だ。 だから気持ちがいいままでエレベーターに乗ってしまったんだ。
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