ボーンヘッド・木暮敦士side

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 ドキドキしていた。 ライブハウスならでわの薄暗いステージからでは見えないファンと接触出来るからだ。 熱心なファンの一部は出待ちや入待ちしている。 でも規律を守って集まってくれている方々とは触れ合うことなど出来ないのだ。 実はライブハウスの殆どが出待ちや入待ちを禁止している。 商店街や道を歩く人達の邪魔をさせないためだ。 歩道の縁石でのジベタリアンや入り口近くでたむろしているファンを目の仇にしている人もいるくらいなのだ。 それだけ迷惑をかけているらしいのだ。 俺達が出場している場所もご多分に漏れない。 だから口頭で何度も注意されていたんだ。 でも言えなかった。 ファンの皆があまりにも嬉しそうだったからだ。 だからこのようなファンと直接触れ合えるイベントが嬉しいのだ。  (俺達にそんな魅力があるのだろうか?) 俺は常に考えていた。 だからもっともっとビッグなグループになりたかった。 俺はそのアピールのために、此処に来たのだ。  従業員専用エレベーターはとにかく広い。 バンドのセットも一度に運べる。でも万が一のことを考えて、小分けにすることにした。もしも倒れてキズでも付けたら大変だからだ。ステージパフォーマンスとして、ドラムセットやギターなどを破壊するバンドもある。 何時かは俺も遣りたいけど、今は時期尚早。 成り上がりバンドなど簡単に蹴落とされるから、行動は慎重にしなければならないのだ。 だから出入りの業者の振りをして、何度か往復していたんだ。 まだ駆け出しのバンドだけど、一応のファン対策も兼ねた行動だったのだ。  従業員にまみれての行動は此方も多目に見られていることもあって、気遣いつつも羽目を外していたのだ。 だからついつい遣ってはいけないことをしようとしていたのだ。 俺がエレベーターに乗ったのは、妻へのプレゼント選びだった。 俺はロックグループのボーカルだ。 売れない時代から支えてくれた妻が、俺の好みのちょいっとロングなチェーンを探してくれたんだ。 しかも、ゴールドスカル付き。 こんなカッコいいペンダントヘッドなんてそうざらにあるもんじゃない。 俺は素直にそう思った。 だから物凄く嬉しいかったんだ。 だから、今まで支えてきてくれた妻にお礼をしたくなったんだ。 俺は目の前に転がる首を見ながらそんなことを考えていた。
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