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それを見た私は落ち着いた口調で、しかしはっきりと言った。
「恐れ入りますが、保険料としてさらに1億円が掛かります。」
「そ、それって戻ってくるんですよね?」
「はい、不祥事がなければ必ず戻ってきます。今、1億円はお持ちでしょうか?」
「いえ、持っていません。」
「かしこまりました。ではこちらに不祥事が起きた場合の請求先と、サインをお願いします。」
「は、はい。」
青年は手を少し震わせながら記入しはじめた。この時ばかりは、さすがに緊張が勝ったような目つきをしている。
「請求先は、お父様で間違いないでしょうか。」
震えた文字で小さく名前が書いてある。その横の本人との関係についての欄には、申し訳なさそうに「父」という文字が書かれている。
「はい……そうです。」
「かしこまりました。6万円と不祥事の場合についての書類、確かにいただきました。」
私は受け取った6万円と書類を大事に後ろにある引き出しにしまい、その青年を館の奥へと誘導した。
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