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小雨の妖精(Ⅱ)
あれは空が灰色に曇っていて、小雨が降っている肌寒い日には必ず現れた。
逆にいえば、それ以外の時には現れなかった。外が晴れていたり、小雨でなく普通の雨だったり、また小雨が降っていても比較的温かい日には現れなかった。
さらに図書館のあの席以外から見てもあれは現れなかった。
しかし条件がそろえば必ずあれは現れた。
現れるたびにあれは、木の枝の上をちょこちょこと動き回った。
そして会うたびにあれの魅力に引き込まれていく私は、次第にあれと会うことが楽しみになっていった。
そのため小雨の時は必ずその図書館の窓際の席で本を読んだり、勉強をしたりした。
あれは常に私の心を揺らした。そしてそれがとても心地よかった。
肌寒い季節の灰色空と小雨は、多くの人達を陰鬱にさせる。しかし当時の私にとって、その小雨は太陽よりも暖かかった。
友達にその不思議なあれを紹介しようと思ったこともあった。しかしあれについて誰かに話すと、あれがどこかへ消えてしまいそうな気がした。
そのため一度もあれについて話そうとはしなかった。
そんな女の感みたいなものが働くぐらい、私にとってあれは特別な存在となっていた。
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