カイコの館(Ⅰ―Ⅱ) ~ようこそカイコの館へ~

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カイコの館(Ⅰ―Ⅱ) ~ようこそカイコの館へ~

ギー、ギーっと床が呻く音だけが聞こえる沈黙の中、私(わたくし)は青年を連れて長い廊下を歩いた。早くもなく、また遅すぎることもないペースで。 こんな時、立派な商人なら得意な話術で青年の緊張を解すのだろう。 しかし私は人の心に介入するべき立場ではない。いくらこの青年が緊張で、恐怖すら感じていたとしても私には何もできない。 私達は沈黙を保ったまま歩いた。そして長い廊下の突き当たりまで辿り着いた。そこには他の扉とは違う比較的きれいな扉がある。半年前、また新しく付け替えた扉だ。 「私にできることは、これくらいしかない」という思いから、ここの扉だけ特別にしてある。 その扉を開けると、大きな空間が広がっている。ここはこの館内で一番大きな部屋だ。 長い廊下を渡る間、始終下を向いていた青年もさすがにその広さに顔を上げ、目が点になっていた。 毎回のことではあるが、この時はいつも面白い。
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