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カイコの館(Ⅰ―Ⅲ)~ようこそカイコの館へ~
飛行機はしばらくの間、濃い青系統に彩られた世界を飛んでいく。空間のうねりで、酔ってしまうお客様もいるのだが、今日のお客様は心配なさそうだ。
なぜなら先程から何かに思い耽っている様子で、じっと足元を見ているからだ。
その目はこの世界に入る前よりうつろになっていた。
しかしそれはこの世界のせいではない。この世界は確かに青年にとっては異様な世界だろう。
しかしもう既に青年は気づいている。そのことに関してはもう既に、こうゆうものだと割り切っている。
大の大人でも錯乱状態に陥る者もいるのに―このような時分では必ず質問攻めをくらうもだが、それが本当に面倒だ―この青年は意外に肝の据わった者であると、私(わたくし)は少し感心していた。
飛行機はまだうねる世界を飛んでいる。ここではエンジン音だけしか聞こえないし、機内の匂いだけしかしない。
実際に時々生身でこの世界に入っている私だから分かることだが、この世界には基本何もない。音も無ければ、匂いもない。暑さも無ければ、寒さもない。
さらには光すらないように思われる。この濃い青系統の彩りは、おそらく隣接している世界から漏れ出した光によって作り出された色だろう。その証拠にでこぼこと明暗がある。
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