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 組に入ったばかりの頃は、組長の情事の後始末をさせられていた。下っ端の役目だと兄貴分に言われ、仕方なく従っていた。  組長には外に囲った愛人が数人いたが、屋敷に呼び出されるのは、決まって高校生の男の子だった。体を玩具のように好き勝手され、苦痛に歪むその顔は痛々しげで見ていられなかった。時々合う視線で助けを訴えているように見えたが、俺はどうしてやることも出来なかった。  それとは対照的に、不意に漂わせる芳香は、俺を狂わせた。  情事が終わり、体中ドロドロにしながらも、布団に横たわる肢体は美しかった。真っ白な体に花弁のように散らばった充血の痕、赤く腫れあがった乳首、潤んだ瞳。  更に、情事の手伝いをさせられた時は、彼の視線が絡みついてくるようで、まるで、自分を求められている錯覚に囚われ、相手が男だと分っていても興奮した。  時折、組長無しで、彼と二人だけで何度か抱き合った。俺と抱き合っている間、彼の瞳は組長に抱かれている時とは違い、何かを求める光を俺に向けて放っているように思えた。  その頃、自分が彼に対してどういった感情を持っているのか分らなかった。同情なのか愛情なのか、それともただの欲望なのか。  結局、彼とは気持を確かめ合うどころか、言葉すら交わさなかった。ただ、慰め合うように、体を繋いだだけだった。  そして突然、彼は屋敷に現れなくなった。  しばらくして、家出をしたらしいと他の組員から聞いた。  その直ぐ後、組長の交代劇があり、組を落ち着かせる為に皆忙しくした。だから、常に彼の事を考えていた訳では無いが、ふとした瞬間、彼の事を思い出す事がある。 「その知人に、何か思い入れでもあるんですか?」 「思い入れ?」 「ええ、先ほどからお顔を拝見する限りそう思えますが。社長のいい人だったんじゃないですか?愛おしそうな優しい表情だったり、お辛そうな表情をなさるので。ん、あれ、でも違うか。さっきの人、男の人でしたね。」  俺がどんな表情をしていたか分からない。ただ、彼は今、どうしているだろうと物思いにふけってしまった。
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