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「いつもはストイックすぎる程、ストイックな社長の、そんな表情を見たら、過去にその人と何かあったんじゃ無いかと勘繰りたくなりますよ。それでなくても、変な噂がたってるんですから。」 「噂?」 「ええ。経営するクラブの女の子達が、どれだけ誘っても断られるから、起たないんじゃないかとか。女より男に興味があるんじゃないかとか。」 「可笑しな事を言う。単純に、店の子に手を出さないようにしているだけだぞ。経営者として当たり前の事だ。」 「もっと酷い噂もあるんですよ。」 「どんなだ。」 「そのー。俺とできているそうです。」 「は・は・は!!」 「笑いごとじゃないですよ。俺の女までその噂、気にしているんですから。お願いですから社長。もし、囲っている女がいるなら公表して下さい。いないなら、もう少し分りやすく遊んでください。そういえば、本郷組の組長と、最近よく会われていますね。もしかして縁談ですか。あそこのお嬢さんはもうすぐ三十五で、行き遅れ・・・年頃だとか言われていますし。社長が三十三。年齢的にも合うかと。」 「それは無いな。あそこのお嬢さんは本郷組の若頭と結婚して組を継ぐはずだ。本郷の叔父貴とは傘下の企業経営について話しているだけだ。」  本郷組は先々代の組長の時代に若頭を務めた本郷剛の組だ。前組長と反りが合わず、一時期幹部を降ろされていたが、上部組織の菱和会との繋がりが強く、組長交代劇もこの人が仕組んだ事だと噂されている。現在は組長補佐として、組には無くてはならない人物になっている。  その本郷の叔父貴の推薦もあり、俺は現在、若頭補佐の地位にある。傘下の会社の一部を預かる他、自分でも会社を興し経営している。  杉山は組の人間で、俺の秘書兼ボディーガードだが、長屋は自分の会社の新入社員だ。長引く不況でなかなか内定がもらえないこのご時世。就職できればどこでもいいと、ヤクザが経営している事を知らずに入社してくる若者が毎年何人かいる。そして、一年もしないうちに辞めていく。たぶん、この長屋もしばらくしたら辞めるだろう。
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