吸血鬼文明開化覚書(ヴぁんぱいあぶんめいかいかおぼえがき)

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「ふーん、苦手なものねえ? というと、どんなもんだい?」 「例えば大蒜(ニンニク)だな。それから聖水、お天道様、十文字なんかも苦手だそうだ」 「へえ~そうなのかい。八っつぁん詳しいねえ。でも、なんで大蒜が苦手なんだい?」 「そりゃあおめえ、食うと口が臭くなるからに決まってんだろ。口が臭いと嫌われるからな。お寺の門前にだって〝大蒜と酒は入山を禁ずる〟って書いてあらあ。お釈迦様もお説教なさる時、口が臭いと人の傍に寄れなくなるからってんで、坊主に大蒜食うのを禁止したくれえだ」 「ああ、なるほど。さすが異人の飛頭蛮だけあってハイカラだねえ。おいらもおろくちゃんに『口の臭い人とは口吸いできないわ…』なんて言われねえよう気を付けねえといけねえな。んじゃ、次の〝せいすい〟ってのはなんなんだい?」 「聖徳太子の〝聖〟に水って書くんだ。〝聖(ひじり)〟って付くくれえだから、高野聖(こうやひじり)が水売りでもしてる水なんじゃねえか? ま、そんな特別に売ってる水だから、きっと清らかで甘露な水なんだろうよ」 「ふーん。甘露な水ねえ……でも、なんでその水が苦手なんだろうね?」 「そりゃおめえ、泳げねえからに決まってんだろ。おめえだってカナヅチじゃねえか。大家のご隠居なんかな、子供の頃に溺れたのが原因で今でも朝、顔を洗うのが怖いらしいぜ。バンパイーヤはその水をかけられただけで苦しむってんだからよ、よっぽど泳ぎが苦手なのに違えねえ。この先、もしバンパーヤと知り合いにでもなったら、合羽橋にいる河童達を水練の師匠に紹介してやるといいかもしれねえな」 「ああ、そいつはバンパイーヤさん達もきっと喜ぶよ。なるほどねえ……確かにおいらもカナヅチだから、水に顔つけるのはあんまし好きじゃねえしな……じゃ、そん次のお天道様ってのはどうして苦手なんだい?」 「なんだよ。そんなこともわからねえのか。おめえ、さっきから聞いてりゃあ、ぜんぜん頭を使ってねえじゃねえか。俺達の頭は何も抜けて飛ぶだけにあるんじゃねえんだぞ? よーく考えてみろい? お天道様が苦手だってことはだな、つまり夜型人間…いや、夜型バンパイーヤだってことよ。人間だって、朝が苦手で夜になると目が覚める奴がいんだろう? それと同じよ。それにそもそも俺達化け物は昼より夜の方を好むじゃねえか。中には夜しか出てこねえってワガママな奴だっていらあ」
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