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『昨年、お父様の贈与により取得されました、不動産物件について贈与税の申告が見当たりません。つきましては下記の日時、この書状の他に、必要な書類と印鑑を持参され、資産課税部門までお越しください』
父が遺した老朽化した賃貸マンションなど、入居者が減り、銀行からのローンの支払いを済ませるだけで青息吐息の代物だ。それなのに負債を受け継いだ証拠になる不動産贈与証明書に銀行の借入金の記載がないと、色メガネかけた担当者が難癖をつけてくる。
「銀行が発行している返済予定表に、金額が書いてあるでしょう」
そう指摘したら、子供のように頬を膨らませて、元本と金利をごちゃ混ぜに計算して、今度は返済予定表の金額まで怪しみ。
「地価を公示価格で調べますわ」
こう言うと、自分の机に戻っていった。
公示価格だと若干、一般的な地価より金額が上がるが、儲けなんか見つかる訳がない。
気分を害していると、自分の席で電卓を押している担当が、こっちを振り向いた。
なぜか十円玉を両方の眼孔の奥まで押し込んでニヤついている。
計算を間違うはずで、くり抜かれてるから初めから見えてない。他の職員も同じで、どいつもこいつも「何枚?」とか「何枚なのよ!」とか、焦って小銭を数えてやがる。
驚いていると蛍光灯が消えて、担当者が「何枚だ? 何枚だ?」と、呟きながら飛びついてきた。いや、その時は金を数えてるんじゃなくナンマイダと唱えていたんだ。
振りほどくと鈍痛がした。いつの間に担当者が赤く染まった十円玉の塊を握っている。
右肩に力が入らないので、見ればごっそり筋肉が削られていた。人肉を金に換算してやがる。それを悟って悲鳴を上げていると、その何枚かが、担当者の指からこぼれて床にぶつかり、派手に金属音が響いた。
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