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バスを降りて、お寺が見えてくると自然に鼻歌交じりに足取り軽くなって、たのに。
靴に重りをのせたかのように、一歩をぐっと、踏みしめて、止まる。
だって、前から、今日、待ち合わせの人が向かってくる。
彼も、私を見止めて、ビクッと一瞬、身体をそらして、ゆっくりと手を振りながら、こちらに近づいてくる。
「随分、早いね」
「そっち、こそ」
彼から、視線を外して、見えないように唇を尖らして、せっかく……と、ちらりと、お寺を見上げる。
「お寺さん……、近くにありそうだから。だって、バス停の名前が。だから、お参り、をとか、ね」
私の視線に気がついた彼は、ふっと、笑いを含めたような息を出した。
そして、お寺を指さして、
「ここがバス停の名前のお寺さんだよ」
ハイハイ、知ってるよ!
へー、そうなんだぁなんて、ごまかす前に、もう顔がしおしおになってるのが、わかる。
それくらいガッカリだぁ!
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