第1章 大切な物 

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第1章 大切な物 

さっきから、長い沈黙が続いている。 部屋からは僕のお茶をすする音と、女の子がお茶をすする音しか聞こえない。 このままではしょうがない。勇気を出して、話を切り出そうとすると同時に、彼女が口を開いた。 「…お名前は確か…神流葵(かみなあおい)様…ですよね?」 「……どうして僕の名前を?」 何で彼女は、僕の名前を知っているんだろう。 今日が初対面のはずだし、さっき会ったばかりで自分の事なんて話した覚えがない。 ……まさか。僕が意識を失っている間に聞き出したとか 変な事ばかりが、頭をよぎっていく。 「そんなに怖い顔をしないでください。知っているのには、ちゃんと理由がありますから」 そう言って彼女は微笑む 僕はその笑顔を見て、何故か安心してしまった。 これはおかしなことなのに。有り得ないことなのに。 「……本当は私から自己紹介をするべきでしたね。怖がらせてごめんなさい」 「い…いや…ちょっとびっくりしただけだから…」 良かった、と笑いながら話す彼女。 やっぱり僕はこの人に会ったことがあるのだろうか? 何だろう 懐かしい感じがする。 「…私の名前は、三ノ宮天音(さんのみやあまね)。よろしくお願いしますね」 その笑った顔 やっぱり見覚えがある。 でも、やっぱり思い出せない。 思い出そうとすると、靄が懸かったように 「あ、あの…っ」 僕が言葉を発しようとした瞬間、彼女が遮るように立ち上がる。 「少し席を外しますが大丈夫ですか?」 「は、はい。大丈夫です」 そう彼女は言い残すと、部屋の奥へと潜ってしまった。
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