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類は夫紀一郎から貰ったべっ甲の手鏡を
大層喜んだ。薄紅とも淡紅色とも言い難い、
微妙な色合いの百合が美しく粋である。
毎晩眺めては、自分の美しさに惚れ惚れしていた。
ある夜、鏡に映る自分が一段と美しく見えた。
「許してくれ類、ほんの出来心だ」
夫紀一郎の浮気を知った類は、
実家より御守りで渡された短刀を
躊躇わずに振り下ろす。
「ぎゃああああーーーっ」
断末魔の叫びをあげ、
首から大出血した紀一郎は絶命した。
返り血を浴び、類はうっとりと微笑んでいた。
この世に強すぎる執着と恨みを残した伽耶の魂は、
鏡に宿った。
それは、愛する男との未来を無邪気に喜び
この世の春を謳歌する女の喜びに、鏡は反応する。
そして女と女の想い人の人生を破滅に導くのだ。
気をつけなされ。
鏡越しのあなたが
いつもより格別に美しく見えたなら…
それは、あなたと瓜二つに変化した伽耶の念。
それは永久(とこしへ)に続く私怨の鎖。
鏡から鏡へと…。
完
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