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「あ。お前、こっちに帰っていたのか? ひさしぶりだな」
「応。ごぶさた」
「こっち、何も変わらないだろ? 帰ってくるだけでも金がかかるだろうに」
「あー。親父たちが顔を見せろって、うるさくてさ。けど、確かに変わらないな。この辺。今もそこの商店街、のぞいてきたんだけど。路地の古本屋。まだ、やってたんだなあ」
「路地の古本屋・・・」
「あー。子供の頃、お前と一緒に、よく通ったよな。マンガも雑誌も、ムチャクチャ安いんだけど。あそこの爺さん、ムチャクチャ偏屈だったよな。立ち読みは30秒以内、とか。元のところに、1ミリもズラさず戻せ、とかさ。文句を言ったら『ここはオレの店だ。オレのしたいようにやる!』って、何度怒鳴られたかなあ」
「お前・・・あの店に入ったのか? 入れたのか?」
「ん? 何だか・・・懐かしくてさ。昔もうす暗くて、小汚かったけれど。今はさ。昼間なのに地下室にいる感じ? 外は暑いのにひんやりしてるし・・・土くさいし。相変わらず、本はたくさん、あったけどさ」
「・・・で、爺さんはいたのか?」
「いたいた。いたよ! あいかわらず、店の奥で目を光らせてるんだ。光の加減かな。ホントに目が、ぼうっと光ってるみたいで・・・」
「で、何か、しゃべったのか、爺さんと」
「うん。それがな。確かにしゃべったし。結構、長い間、店にいたのに・・・何をしゃべったか思い出せないんだ。店を一歩出たら、ものすごい熱気でハッと我に返ったんだけどさ。ハハハ、まさか熱中症かな?」
「そうか・・・いや、真昼間だし。まさかとは思ったんだけどな」
「あー、何だ? あの店、どうかしたのか?」
「うーん。言った方がイイのかな。あの、古本屋、もう、ないんだよ」
「は?」
「半年くらい前かな。あの爺さん、店のなかで首をくくったんだ。以前からこの不景気だろ。商売が商売にならなくて・・・かなり、おかしくなってたんだが」
「ちょっと待て。今さっき、その店に行って・・・爺さんと話したところなんだぞ!」
「ウン。お前だけじゃないんだ。シャッターが閉まって売り物件の表示は出ているはずなのに。店内はがらんとして、何も残っていないはずなのに。あそこが以前と変わらず開いていたとか」
「・・・・・・」
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