合歓綢繆

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「…ただいまでーす。」 「おー、おかえり。」 「おかえんなさい、お兄さん。」 店に帰ると、さっきのお客さんは既にお酒を飲んでいた。 俺はカウンター内の冷蔵庫に牛乳を入れて、改めてお客さんに向き直る。 「…さっきはどうして俺に声かけてくれたんですか?」 「いや、俺一瞬お兄さんのこと女の子だと思ってさ。でもよくよく見たら綺麗な男性で、なんかキた。」 …下心かよ。 「俺、壇新太。お兄さんの名前は?」 「…シュウっていいます。」 「…本名知りたかったんだけどなぁ、仕方ないか。」 …なんだろう、こいつの下心、俺に向けてのものか? 違和感がある。 「それよりシュウ、何飲みたい?」 「…あー……新太さんと同じので。」 「いいの?結構強いよ?」 それでもいいと押し切り、樹さんに、何をお出ししたのか聞いた。 「ん?あぁ、マティーニ。」 「まっ…!?」 マティーニなんか、酒の酒割だ。 有名な映画なんかを見て、酒を覚えたての若者が大体注文してくる。 そして毎回確認する、度数が高いが本当にマティーニで良いのかと。 樹さんも毎回確認しているはずだ。 飲み残されたら困る。 「しかも、二杯目。」 「……は、ぁ…」 新太さんはケロっとしているけど、アレ、二杯目のマティーニ。 「……カクテルグラスに水注いでオリーブ入れてもいいですか。」 「構わねえよ、仕事だしな。」 マティーニなんか飲んで酔って仕事できなくなっても困る。
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