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その校舎を見上げて、暇だった僕は計算してみました。
小学校の教室の床から天井までがだいたい3メートルくらいです。中学校も同じ学校と名のつく建物であるからには、(入ったことないけど)同じくらいの高さなんじゃないでしょうか。校舎は三階建て。そこに天井・床の厚みと屋上のフェンスを足して、おおよそ校舎の高さは12メートルくらい。
意外と数字は大きくないんだな、と思いました。でも、お兄ちゃんは死んだのだから、上から見たらまた違ってみえるのかもしれません。
真下はコンクリで固められた来客用の駐車場です。落ちた時はどんな音がしたんでしょう。
僕は耳をすましたら聞こえないかと思いましたが、今聞こえてくるのはお母さんのキイキイ声ばかりです。
お父さんも中学の偉い先生だという男の人たちも、みんな黙ってその声を聞いていました。
声が高すぎるし、早口だし。一体何を言っているのかわからないのに。(かろうじて「私悪くない」だけはよく聞くから聞き取れました)
お参りもしたし、花もお菓子もジュースもお供えした。やることはやった。
でも、まだお母さんは帰るつもりがないようです。
こっそりため息をついていたら、遠くで夕焼け小焼けのサイレンがなりだしました。
お父さんはそれを合図にしたようで、ようやくお母さんを止め始めます。
(あともう少しの辛抱だよ)
と僕は下を見ました。お母さんにお腹を踏まれているお兄ちゃんに、心の中で呼びかけます。
夏なので、夕方でもまだ明るいです。
まばたきもせずに空を見続けるお兄ちゃんにならって、もう一度僕も顔を上げました。
空は青くてきれいでした。
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