プロローグ

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プロローグ

 夜遅くに一人で外に出たのは、おそらくこれが初めての経験だろう。夜には家にいて、夕飯を食べ、お風呂に入って、テレビを見て、寝る。これが普通であり、覆ることのない普遍的な習慣、日常というものだからだ。  夜行列車に乗るのは、確実にこれが初めての経験だろう。一畳ほどの狭い個室。荷物を上の棚に置いて寝るだけのスペースしかない。  そもそも、電車というもの自体、それほど乗った経験がない。学校も地元、買い物も地元、友達と遊ぶにしても地元。何もかも地元で済ましてきた。そして実際、それで今まで楽しく生活できていた。  そこでふと思う。実は俺は、この町の外に出たことがないのではないか、と。  今までそんなことは意識したこともなかった。たしかに、テレビなどで都市部の映像を見れば、行ってみたい、こんな場所に住んでみたいなどの憧れを持つことはあった。でもその感情は所詮は憧れであって、実行に移すような意志など全くなく、結局のところこの町から外には出ていなかったんだと思う。     
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