プロローグ

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
 それもおそらく、この町で大抵のことは何とかなったからだろう。周りを山に囲まれ、都会から来た人には「自然が豊かで、いいですね~」としか言われないような町である。それでも一応はコンビニ、スーパー、ゲームセンターなどはあり、日常生活においては何ら不便ではないのである。これも時代の変化なのだろうか。友人はこの町を『田舎ではあるが、自慢するほど田舎ではない』と評しており、俺もまさにその通りだと思ったものだ。  そして何より、俺はこの町が好きだった。自然豊かな、中途半端なこの町が。 『ご乗車ありがとうございます。この列車は――』  アナウンスが入る。俺はそれを聞き流しながら窓の外を眺めた。  俺の育った町。  十四年間、生活してきた町。  一度も出たことがない町。  真夏の夜は真っ暗で何も見えない。それでも、俺の脳裏にはいつもの光景が鮮明に浮かんでいた。  引き返すなら今しかない。今この列車を下りれば何もなかったことにできる。そんな考えが脳内を駆け巡る。  しかし、俺はそれを追い出した。引き返すなどしない。何もなかったことになんてできない。これは俺の覚悟。初めての反抗なのだから。 ベルが鳴り始める。俺は窓の外から車内へ視線を戻した。そうすることで雑念を、未練を断ち切った。自分の覚悟を表明したんだ。 発車のベルが鳴りやみ、扉が閉じられて、列車はたった今、動き始める。 列車はそのまま一定のリズムを刻みながら、少しずつ加速していく。 駅が遠ざかる。町が遠ざかる。家が、遠くへ消えていく。     
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!