0人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
一章 ムカシノ話
「行ってきます!」
「い、行ってきます!」
夏が来た。夏休みが来た。外は気温三十五度を超え、これからもさらに上がっていくのではないかと思う。周りを山々で囲まれた田舎町。、そこら中から虫の鳴き声が聞こえ、もはや風情もなにも感じられない。
そんな真夏の真昼間。俺と妹の沙耶は外を走っていた。
「遅刻だよ、彰」
「もう、こんな中待たせないでよ」
「わりぃわりぃ。沙耶がのんびりしててよ」
「さ、さやのせい!?」
待ち合わせ場所の森の前に着くと、すでに湊と唯が俺たちを待っていた。
「もう、彰はすぐ沙耶ちゃんのせいにするんだから」
「っせーな。お前はいっつも沙耶を庇いやがって」
「庇ってるんじゃない! 彰が毎回沙耶ちゃんのせいにするから注意してるだけ!」
唯はいつも真面目で、色々と厳しい奴だ。その性格から委員長気質だと周りからよく言われている。
「でも唯だってさっき自販機に小銭落として俺に請求してきただろ?」
「ちょっ、湊! 今それ言わないで!」
が、ところどころ抜けているところがあるので、俺たちの間では『偽委員長』の愛称を持っていた。
「うわっ、せこいな偽委員長」
「そ、その名前で呼ぶなー!」
最初のコメントを投稿しよう!