一章 ムカシノ話

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一章 ムカシノ話

「行ってきます!」 「い、行ってきます!」  夏が来た。夏休みが来た。外は気温三十五度を超え、これからもさらに上がっていくのではないかと思う。周りを山々で囲まれた田舎町。、そこら中から虫の鳴き声が聞こえ、もはや風情もなにも感じられない。  そんな真夏の真昼間。俺と妹の沙耶は外を走っていた。 「遅刻だよ、彰」 「もう、こんな中待たせないでよ」 「わりぃわりぃ。沙耶がのんびりしててよ」 「さ、さやのせい!?」  待ち合わせ場所の森の前に着くと、すでに湊と唯が俺たちを待っていた。 「もう、彰はすぐ沙耶ちゃんのせいにするんだから」 「っせーな。お前はいっつも沙耶を庇いやがって」 「庇ってるんじゃない! 彰が毎回沙耶ちゃんのせいにするから注意してるだけ!」  唯はいつも真面目で、色々と厳しい奴だ。その性格から委員長気質だと周りからよく言われている。 「でも唯だってさっき自販機に小銭落として俺に請求してきただろ?」 「ちょっ、湊! 今それ言わないで!」  が、ところどころ抜けているところがあるので、俺たちの間では『偽委員長』の愛称を持っていた。 「うわっ、せこいな偽委員長」 「そ、その名前で呼ぶなー!」     
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