君が墜落するイメージ

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 家から近い上にある程度のレベルの高さを維持しながら自由な校風というのを気に入った両親にお受験をさせられて入学したのだが、今では多少恨んでもいる。  ここに入らなければ片瀬千早に会うこともなかっただろう。  しかしこの校舎とも来年の三月にはお別れだ。ここの大学には医学部がないのだ。  千早が大怪我をして現れたとき、やはり多少医療の知識があった方が良い。できれば救命医か外科医になりたい、と思ったのが医大を志望した動機だ。  千早は校内に着くと、眠そうな声で言った。 「ちょっと上行くわー。廉くん先教室行ってて」  僕はどうしようか迷ったが、やはりついて行くことにした。  千早は重たい扉を開けて、小走りで中等部側の校庭が見える場所へ向かう。柵を掴み、身体をふわりと浮かせた。風が髪を撫でている。  その姿は見慣れているが、僕はなぜかいつも不安になった。柵を乗り越えようとしたり、柵の上に腰掛けたりするあいつは、いつか落下する、そんな気がするのだ。 「離れろよ」  千早はきょとんとした顔をして笑う。 「何で?」 「いいから」  そう言って二の腕を掴んで引き寄せる。 「・・・・・・危ない感じがする」  何を勘違いしたのか、僕の首に手を回してきて、ぎゅっと抱きしめられる。そして小さい声で言う。 (廉くん) 「本当に廉くんはオレのことが」 「大嫌いだから」  そう答えると、僕の腕の中で少し首を傾けて片瀬千早は困ったように眉を下げて笑った。 「授業はじまるよ。すぐに追いかけるから早く行きなよ」  その仕草、その表情に僕が目を奪われることを知っていてそうするのだ。何と計算高い腹黒なのだろうと僕はまた不愉快になる。  その日、片瀬千早は教室には来なかった。相変わらず、誰もその不在を口にすることはなかった。 「嘘吐き」  呟いた言葉はため息のように窓の外に消えた。
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