君が猫になるイメージ

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 猫を担いだおじさんは少し振り返ると尋ねた。 「見に来るかい?他にもたくさん飼ってるんだよ」  嫌な予感はしたものの、その猫は特別だった。ここで失うわけにもいかない。僕は仕方なくおじさんの後に付いて行ったのだ。  そこはおじさんの身なりに似合わず、明らかに高級なマンションだった。  おじさんの部屋は8階建ての最上階で、そのフロアには一室しか存在しない。おじさんは指紋認証だけで扉を開けた。  しかし屋内は埃っぽく淀んでいて、外観からは想像がつかないほど傷んでいた。腹にむっと湧き上がり鼻を突く異臭が、いくつもの芳香剤と混ざり合っている。床は何かをこぼして放置された後乾いたような染みや、埃の上に埃が乗って湿気で貼りついた痕などで汚れ、完全にその輝きを失っている。僕は猫を取り返して早く家に帰りたかった。  廊下の突き当たりがリビングダイニングになっていて、同じ年ぐらいの女の子がお湯を沸かしていた。テーブルにはカップラーメンがいくつも並んでいる。僕は当時まだカップラーメンを食べたことがなかった。  おじさんはその部屋の横に付いたドアを開ける。 「ここが猫の部屋だよ」  10畳程度の部屋に十数匹の猫がいた。しかしトイレの設置もなく、ひどく不衛生で更にひどい臭いがした。おじさんはロシアンブルーをその中に離す。部屋の奥には曇りガラスの腰窓が一つだけあり、締め切られている。僕は口だけで息をするように努めながら尋ねた。 「掃除してもいい?」 「そんなこと言ったガキはお前が初めてだな」  先ほどの猫なで声とはうって変わってひどい言葉遣いだ。おじさんは僕が部屋に入ると背後で扉を閉めた。臭いが篭り増幅する。僕は吐き気がした。 「窓、開けてもいい?」 「開けられるもんならな」  僕は窓に近づいた。よく見ると鍵の部分に1~9までの番号ボタンが付いたボックスが付いている。 「ここいら一帯で猫が殺されているのは知っているか?」
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