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おじさんは背後でそう言った。猫が殺されているのは、朝のニュースでもやっていたから知っていた。
「もうわかってるんだよ。あいつが猫を殺してるんだ。でも証拠を出さない」
おじさんは閉じられた扉を見やりながら言った。さっきの女の子が猫を殺していると言いたいのだろうか。
「だからお前が猫を殺してあいつが殺した証拠を作れ」
その段階で僕はかなりまずいことになったと気付いた。僕は猫を殺したくなかったし、おじさんの言っていることは滅茶苦茶だからだ。
するとおじさんは僕の前に腰を下ろすと両腕を掴んだ。
何だろう。
「可愛いなあ。名前は何て言うんだ?」
瞳はどんよりとしていて昏く、髪も肌もべとべとしていて気持ちが悪い。おじさんは僕の頬に手を当て、口を開けてベロを出した。そしてべっとりと僕の顔を嘗めたのだ。おじさんの息はその部屋よりもずっと臭くて嘔吐感がこみ上げてくる。
身じろぎ一つしない僕に、にやにやと下卑た笑みを浮かべる。
「いいよ、お前」
後頭部を引き寄せてまじまじと僕の顔を見つめる。
「こんな美少年を間近で見たのははじめてだよ」
僕もそんな醜い顔を間近で見たのは初めてだった。
「ここで楽しくやろうぜ」
そう言って太い汚らしいぶよぶよの手を僕のシャツの中に伸ばしたその時だった。
あの猫がおじさんの首に飛び掛り、思い切り噛み付いたのだ。おじさんは悲鳴を上げ立ち上がると猫を払い飛ばした。猫は壁に打ち付けられて、床に落ちる。
おじさんは舌打ちして猫を踏みつけようとする。
僕が止めに入ろうとした時、扉がドンドンと叩かれた。
「もうごはんできてるけど!」
女の子の怒鳴り声だ。
おじさんは「気が利かない奴め」と吐き捨てて、
「アイツだ。アイツが猫を殺しているんだ」
と囁き、扉を開けて出て行った。
僕は壁に叩きつけられた猫を抱えると、ダイニングの様子を伺った。おじさんはカウンターの向こう側に居る。
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