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君が墜落するイメージ
濃い灰色の髪が開いた窓の風に靡く。頬杖を付くと、涼しそうな表情をして目を閉じる。その様子を見ていると、うっすら瞳を開けて、少し上目に僕を見る。潤みがちなそれは、やや三白眼で青みがかった灰色をしている。
教室の窓際の一番後ろ、それは僕の席であるはずだった。
背後に気配を感じたのは去年の夏の終りの頃のこと。誰かがいるはずはないのに、振り返ると彼がいた。
「転校生?」
「やだなあ。廉くんボケちゃったの?」
そう言って、片瀬千早は笑い、ほんの少し眠たそうな眼差しで僕を見た。
言われてみれば、彼はずっとそこにいたような気もするし、クラスメイトは誰も不思議に思っていなかった。ごく自然に溶け込んで、彼の周りには男女問わず人が集まる。そしてあれこれと世話を焼きたがる。華奢で少し背の低い彼は、回りに人が集まるとすぐに埋もれてしまう。そんな姿を見ていると、僕はなぜか苛々とした。
時々、千早はいなくなった。いや、むしろ時々いるといった方が適当なぐらい休みが多い。そんな日は出欠で彼の名前が呼ばれることすらない。ぽつんと残された机と椅子が確かに存在していることを示しているが、誰かに尋ねてみても曖昧に答えるだけだった。
「さあ、風邪でもひいたんじゃない?」
「家の都合じゃない?」
曖昧に僕の問いかけを聞き流しながら誰も彼のことを詮索しない。そこにいるときはいつだって構うくせに。
(弁当やるよ)
(テストはここが出るから今のうちに暗記しておきなよ)
今だってそうだ。いつの間にかそこにいて、いつの間にかいなくなる。感じる違和感を気のせいだと振り切りながら尋ねる。
「今日のミニテストどうだった?」
「あー、真っ白だわ。先週いなかったしね」
「でも直前で清水に教わってたじゃん」
「ん~」
千早はやや小さめの口を尖らせながら、くるくるとシャープペンシルを指で回した。
昼休みに屋上に行くと、いつも通りに寝転がって目を閉じている。制服が汚れるのは気にならないらしい。
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