君が猫になるイメージ

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君が猫になるイメージ

 その夜、珍しく夢を見た。  たぶん10歳前後の頃だったと思う。何の変哲もない夏の日に僕は誘拐されて、とあるマンションの一室にいたのだ。  当時、僕はマンションから少し離れた公園で猫を飼っていた。  その猫はいつも居るわけではなかったが、時々会えるとすごく嬉しかったのを覚えている。今思えば野良というには美しすぎる、すらりとした上質な毛並みのロシアンブルーだった。懐かしい思いの中で、僕は猫を探した。 「ごはん持ってきたよ」  暗闇の中で声をかけると、その猫は茂みの奥から飛び出してきた。 「廉くん」  猫は片瀬千早の声で言った。 「何でここにいるの?」  そういえば濃い灰色の毛と、青みがかかった灰色の瞳は片瀬千早と同じものだ。 「お前こそ何て格好してるんだよ」 「え?裸だってこと?」  賢そうな顔をして、頭の悪いことを言う。片瀬千早である。 「ちげーよ馬鹿」  僕は缶詰を開けていると、片瀬千早が、もとい、猫が飛びついてきたので抱きあげたままベンチに腰を下ろした。そこで缶詰を開けると、美味しそうに食べ始めた。  すると背後で声がした。 「猫が好きなのかい?」  僕が驚いて振り向くと、ポロシャツにチノパン姿の中年の男が立っていた。でっぷりと膨らんだ腹がズボンの上に乗って盛り上がっている。 「家では飼えないから」  僕がそう答えると、美味しそうに缶詰に夢中になっている猫を担ぎ上げてしまった。 「この猫はおじさんの猫なんだよ」 「でも」  むっとして言い返そうとしたけれど、言葉が無かった。家で飼えない以上、猫の所有権に関しての僕の立場は弱いものになる。
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