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僕がぬいぐるみになるイメージ
その夜また夢を見た。どうやって家に帰り着いたのかは覚えていない。でも僕はいつものベッドでいつもの窓を見つめて眠った。次に目を開けると真っ暗の中にいた。
何にも見えないけど、耳だけはよく聞こえる。
誰かが遠くの階段を駆け上がってくる。
僕の鼓動が少し高まる。
廊下を歩いている靴音が徐々に近づいて、カバンから鍵を取り出す音がする。
玄関の鍵穴に差し込まれたそれが回される。
ほら、カチャリと開く。
次に扉が開き、僕の横を通る気配を感じる。
カーテンが開かれて部屋に眩しい光が差し込んでくる。
窓の外にはチョコロールの形をした桃色の雲、茜色の夕焼け。
まるで絵の中にいるようだ。
全てが平面で作られた、薄くて可愛い二次元みたい。
目の前に立てかけられた鏡に、抱き枕みたいな長くてくったりとしたクマのぬいぐるみが映っている。相当古いのか、継ぎ接ぎだらけだ。ロッキングチェアに座っている。
「ただいま」
片瀬千早はそう言うと、クマのぬいぐるみ、つまり僕を撫でた。
千早は古びた木のテーブルに置いてある一眼レフカメラからフィルムを取り出し、ポケットにしまう。新しいものをセットすると首にぶら下げた。
僕を抱えて、また出かける支度をする。
どこに行く気だろう。
そう考えると、それに答えるように言った。
「クリーニング屋」
クリーニングに出すような服を持っているのだろうか。
「写真を現像に出さないと」
クリーニング屋で現像なんてできたっけ。
「あそこはやってくれたでしょ」
僕の考えてることがわかるのかな。
「当たり前」
千早はそう言うと、僕の頬に口付けた。
夕暮れ時の街はきれいだ。レンガ造りの建物と石畳、緑の木々まで全てが茜色に包まれて、全てが古いアニメーションのように見える。
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