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シェフのオムレツ
「どうですこの景色!」
彼女はそう云って窓を開けてくれた。何とも言えない重厚な装いだった。それというのも木製の扉を開けてのこの光景だから、演出としてはかなりの効果がある。なるほど白樺の木立と湖のそれは神秘的だ。ただ、それ故に恍惚と眺めてしまう。だが、晩秋ともなれば風は冷たく「閉めてもいいでしょうか?」と尋ねてきた。ついもの想いにふけてしまった。「失礼」と云いつつ、キッチンを見せて貰った折の、彼女の「料理はお手のものでしょう」との言葉が妙にもたげだしたのだ。もちろん、料理人であるからそう云われるのも当然といえば当然なのだが。
「初めて見ました。」
もちろん、これは営業としての語り。愛車のフェラーリを褒めそやすのだった。でも今や愛着があるにもかかわらずこれを手放さなければならない。無論、そういった外観で期待を寄せるのは分からないでもなかった。思えば陳腐な話だ。定休日の今日、この車に乗れるのもいくばくもないと思う余り、ドライブに出掛けたのだ。だが、行く宛などなかった。そんな折、ダイレクトメールが届いていたのを思い出した。しかもこんな自分にもという感慨を伴いつつ。それはシェア別荘の案内だった。数区画にヴィラが建てられているというもので買える訳がないにもかかわらず、ただ単に休憩に利用しようとするケチな領分から訪れただけだった。
だが、はなから買う気がないから畢竟私の態度は煮えきらないものとなっていた。だから彼女は辟易とし、突如備え付けのベッドに腰をかけた。ただ、そのスカートの丈が余りに短かったため下着が見えそうになりすぐにその視線をそらした。しかし、一方で不埒な考えを浮かばせもした。
「ここで女性と過ごせたら最高でしょうね。」
「何だったら試してみます?」
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