伸ばされた腕

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伸ばされた腕

 コインロッカーから腕が生えていた。白く瑞々しい、蝋のような色をした、女性のものであった。あれ、と思い瞬きをすると、すうと消えてしまう。幻覚だったのだろうか。だとしたら、随分とリアルな幻覚だ。柔らかそうな曲線や、ふっくらとした肌。あの腕は、握ればきっと弾力があり、ほんの少しだけひんやりとしている。そういう女は夜の方も具合がいいのだ。先日戯れに抱いた女も、ああいう腕をしていた。それはもう、楽しい思いをしたものだ。  ゆるりと熱が凝っていく。帰ったら妻を抱いてやろうか。最近随分とご無沙汰だった。  少しいい気分で帰宅すると、妻が居間でテレビを見ていた。こちらを見ようともしない。でろでろと肥った白い腕が、ぱつぱつのTシャツからにょっきりと生えている。げんなりした。一気に疲れが襲ってきて、声をかけることもせずに寝室へと向かった。昔は妻も美しかった。白く細い腕がうねうねと動くさまは艶めかしく、夜の海を泳ぐ魚のように滑らかであったのに。いつからであろうか、あれほど醜くなったのは。
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