ノアの方舟は、船の形をしていたか (1)

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ノアの方舟は、船の形をしていたか (1)

「どうしたん?何か考え事?」 声がする。そう言えばボーッと何か思い出していたような。その理由は単純で、 「あーうん……ごめん……なんか、暑くて」 「そりゃまあ、これだけ人がいればな……ちょいちょいもう仕舞ったサークルもあるのに、今年はすごいなあ」 八月十四日の午後三時、東京ビッグサイト。世界最大級の同人誌即売会・コミックマーケット三日目。うだるような暑さに加えて、人・人・人。今朝耳に挟んだ予報では、今日の東京の気温は三十七度まで上がると言っていた。灼熱の太陽は、高く見上げた位置にある小さな窓越しでもその存在感を痛烈に主張してくる。まさに今、外は三十七度なのだろう。外が三十七度なら、それこそゴミのようにひしめく人間の海で視界が埋まるこの空間はいったい何度になっているんだろうか。考えるだけで頭がクラクラしてくる。「この世の地獄」だとかよくネットで形容されるのも納得の行くその空間に、僕と河村サンはいた。     
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