0人が本棚に入れています
本棚に追加
真昼の太陽が眩しいキャンパス内を歩いていると、突然友人に呼び止められた。
「あ、美里ちゃん。」
噂好きの彼女は、大学で同じサークルに入っている女の子だ。話したくてたまらない、という顔をしている。なにか面白いネタでも仕入れたのだろうか。
「こんにちは、どうしたの?」
「聞いてよ、うちの部で行方不明な子がいるって言ったでしょ。」
「うん、半年くらい前に二人とも旅行に行って居なくなったっていう。」
「そう!二人ともまだ見つかってないんだけど、私この前、沙紀のほう見ちゃったの!すぐ見失って、話してはないんだけど。」
「え?」
私の混乱など知らず、彼女は話し続ける。いつ、どこで、どんな格好だったかまで、事細かに教えてくれた。
でもそんなことはどうでもいい。問題なのは、彼女が沙紀を見たという事実だ。そんなこと、ある訳がないのだから。
(だって沙紀は私なのに。)
沙紀は行方不明になってなどいない。沙紀は私。今は美里になっている。だから、彼女が沙紀を見たなど、あるはずがないのだ。
私、沙紀は、一緒に旅行に行った親友の奈々花を殺した。原因は奈々花が私の彼氏を盗ったから。
私たちはよく似ていた。体格も、顔つきも、考え方も、音楽や食べ物の好みも、男の趣味も。奈々花が私の好きになった人を好きになっても、おかしくはない。
でも許せなかった。私は旅行先で彼女を殺し、死体を海に捨てた。そして二人が行方不明になったかのように偽装をした。自分の存在も消して、整形して新しい人生を得て、私は沙紀から美里になった。恋人も取り返した。全てが計画通りに進んだ。
だから沙紀は、もう存在するはずのない人間。なのに……
「ほら、そこにいるよ。」
目の前にいる友人が、私の後ろを指差す。私は気味悪く思いながらも、ゆっくりと振り返ってみた。
最初のコメントを投稿しよう!