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少し離れた所から、散らばる学生たちの間をスイスイ通り抜けて、こちらにやって来る影がある。あの背丈、あの体格、あの服装、あの髪型。見覚えがあった。
(嘘、嘘、嘘。そんな、だって、いるはずないのに!)
やって来たのは、かつての自分そのもの。服さえ、以前私が着ていたものと同じで、まるで鏡をみているような気分だ。顔が変わったのも忘れて、私は、私を見つめた。どこからどこまでも同じ、かつての自分が目の前にいる。
「こんにちは。」
以前の私が、にっこり笑う。その声を、私は知っていた。
(そうだこの声は)
聞き間違えるはずのない声。この声を、半年前までは、ほとんど毎日聞いていた。
「はじめまして、私、沙紀っていうの。あなたとは、親友になれる気がするなぁ……」
もう一人の沙紀は、親しげに美里になった私に近寄って、手を握った。
そして、私にだけ聞こえる声で囁いた。
「前みたいに、ね、本物の沙紀」
彼女の手は、海の底みたいに冷たかった。
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