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「病院、あんまり好きじゃないから」 「好きな人はいないと思うけど」 「そうだね」   顔を上げてまた微笑んだ甲斐くん。けれどもその笑顔が泣き出しそうな顔に見えて、私はまた、 「大丈夫?」 と聞く。 「倫ちゃんが大丈夫になったら、俺も大丈夫になるよ」   そう言って立ち上がった甲斐くんは、めくれた布団を私の肩までかけ直してくれた。そして、そっと伸びてくる大きな右手。私のおでこから頭頂部へゆっくりと撫でで、何度も何度も繰り返す。あまりにも優しい感触と体温、そしてあまりにも憂いを帯びた彼の顔に、私は胸が熱くなった。 「もしかして、運んでくれた?」 「……うん」 「ありがとう」 「心配した。……かなり」   彼の手の感触が少し強くなった。親指で前髪を分けながら今度は耳の方へ手を滑らせ、私は片目を瞑る。   私の顔に影ができ、甲斐くんが覗き込んできた。彼の表情は、やはり痛々しさを含んでいる。静まりかえる病室、友達としては近すぎるその距離感に、私は思わず枕の上で顔を横に向ける。
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