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甲斐くんが「続き、こうでしょ?」と言って私の鼻歌を引き継いだけれど、私は首を傾げる。 「えー……っと、なんか、微妙に違うような」 「音痴だって言いたい?」 「違う曲なんじゃない?」   そう茶化すと、甲斐くんは寝ている私の頭をぐしゃぐしゃに撫でて、「ひでーな」と言った。私は「ハハハ」と笑ってから、お腹の痛みに片目を瞑った。   最後まで心配していた甲斐くんは、その数分後に帰っていった。   ひとりになった私は、しばらく閉まったドアをぼんやり眺めていた。 そして、甲斐くんに触れられた頬や頭を、ゆっくりなぞりなおした。 彼の手の温度は心地よかった。私の小さな罪悪感さえ覆い隠してしまうほどに。 「…………」 動いている道孝はどんなだっただろうか。道孝の声は……どんなだっただろうか。 私はなぜか、意識してそれを思い出そうとした。思い出さなければいけないような気持ちになっていた。 しばらくして、お母さんが戻ってきた。保育園へのお迎え帰りだったお姉ちゃんと勇と藍もきてくれた。 「倫ちゃん、どこか痛かったの?」 「大丈夫?」   あまりピンときていないような顔だけれども、私のそばまで走り寄って、勇は頭を、藍はお腹を撫でてくれた。「ありがと。もう元気になったよ」と言うと、ふたりとも満面の笑みで「やったー」と言い、お姉ちゃんも、「心配したよ」と言って私の肩をポンポンと叩いた。   私は笑顔を努めた。そして結局、道孝にはメールをしないままで入院を終えた。
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