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「あ」
校舎の近くまで来ると、里平さんが向かいから歩いてくるのが見えた。フェンス脇、大きな木の下だったので立ち止まり、彼女が同じ影の中に入るのを待つ。
「里平さん」
「大丈夫なの? 体育祭に出て」
私たちは同時に声を発した。ハチマキをしていつも以上に凛としている里平さんは、眉間にシワを寄せて腕組みをしながら私を見る。これでも心配してくれているんだというのが、私には分かる。
「うん。限られたやつしか出ないし、痛みも今は全然ないし」
「また倒れられたら心臓に悪いから、無理はしないでよ」
「うん」
里平さんは、フェンスに寄りかかる。それを見て私も、その隣に背を預けた。
なぜだろうか。教室にいる時よりも、テントの中にいる時よりも、他の女子たちといる時よりも、一番落ち着く。
「今日の打ち上げ行くの? 里平さんは」
「行かないわよ。もちろん」
「もちろんなんだ、そこ」
ふふっと笑ってしまう。里平さんらしい。
私は自分のスニーカーに目を落として、小石を踏んだ。
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