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不意にケータイの着信音が鳴った。メールじゃなくて着信なんて珍しいと思いながら画面を見ると、〝甲斐くん〟と表示されている。 「……はい。小野田です」 『ハハ。ケータイで名乗ってる』 「…………」 『ごめんごめん。こんばんは、倫ちゃん』 「……こんばんは」 『初めて電話かけてみた』 「うん。どうしたの?」 『どうしてるかな、と思って。何してたの?』 「寝転がってた」 『どんな姿で?』 「セクハラだよ」   まるで私の返しが分かっていたかのように、『冗談だって』と言ってケータイの向こうで笑う甲斐くん。いつもどおりの飄々とした声や語り口に、なんだかホッとしている自分がいる。里平さんと一緒で、学校で挨拶くらいならするものの、こうやってちゃんと話すのは夏休み以来だ。 『今日練習一緒だったけど、話せなかったね』 「そうだね。でも甲斐くん、やっぱり足速いんだね」   甲斐くんは大目玉の学年対抗選抜リレーに選ばれていて、今日の種目別練習に顔を出していた。
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