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『見てたんだ。倫ちゃんこそ奮闘してたじゃん、網までは』
「網まではね」
障害物競争の網をくぐるところで、いつも以上に手間取ってしまったのを見られていたらしい。タイミングが悪くて恥ずかしくなる。
『帰りに話しかけようと思ったら、すごいスピードで帰っていったけど、あれってお迎え?』
「そうだよ。遅くなりすぎると双子が不安になるし」
『そっか。あのスピードなら選抜出れるよ』
「いやだよ」
体を起こしてベッドに座り直すと、姿見の鏡に映る自分が見えた。私は自然に頬を上げ、笑顔を浮かべて話していた。さっきまで意図的に笑い顔を作っていたのに。
「…………」
『倫ちゃん、聞いてる? 今一瞬寝てた?』
「寝てないよ」
吹き出してしまうと、甲斐くんが電話の向こうでふっと笑ったのが伝わった。なんでだろう、それだけで心が温かくなったような気がする。
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