4/16
454人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
『見てたんだ。倫ちゃんこそ奮闘してたじゃん、網までは』 「網まではね」   障害物競争の網をくぐるところで、いつも以上に手間取ってしまったのを見られていたらしい。タイミングが悪くて恥ずかしくなる。 『帰りに話しかけようと思ったら、すごいスピードで帰っていったけど、あれってお迎え?』 「そうだよ。遅くなりすぎると双子が不安になるし」 『そっか。あのスピードなら選抜出れるよ』 「いやだよ」   体を起こしてベッドに座り直すと、姿見の鏡に映る自分が見えた。私は自然に頬を上げ、笑顔を浮かべて話していた。さっきまで意図的に笑い顔を作っていたのに。 「…………」 『倫ちゃん、聞いてる? 今一瞬寝てた?』 「寝てないよ」   吹き出してしまうと、甲斐くんが電話の向こうでふっと笑ったのが伝わった。なんでだろう、それだけで心が温かくなったような気がする。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!