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「まだバイト続けるの?」
数日後の体育の時間。更衣室でたまたま隣同士になった里平さんに話しかけられた。
「うん。もう目標金額いってるんだけど……店長に引き止められてなかなか辞められずに」
「能天気な上に、お人好しね」
「そんなふうに言わなくてもいいじゃん」
唇を尖らせると、里平さんは「可愛くないわよ」と言った。
里平さんはバイトは夏休みいっぱいで辞めた。もともとその予定で採用してもらっていたみたいだ。店長が最後らへんで続ける気はないかと説得していたけれど、里平さんのことだ、首を縦には振らなかったらしい。
私はちょうど一緒に着替え終わった里平さんに続いてグラウンドへ出る。
里平さんとは教室では話さないものの、夏休みにバイトで一緒だったからか、ちょっと距離が縮まったような気がしている。いまだに歩み寄りすぎたら引かれるけれど、こういう掛け合いをするのは嫌いじゃないし、里平さんも多少は楽しく思ってくれていると嬉しい。
「何に使うの? バイト代」
「いろいろよ」
「いろいろって?」
「いろいろ」
里平さんはヘアゴムで長い髪をひとつに束ねる。姿勢が良くて凛としていて、女の私から見てもその横顔はきれいだ。
その時、先にグラウンドに出ていた徳原さんがこちらに手を振ってきた。私はそれに気付いて、笑顔で手を振り返す。
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