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……あれ? 誰かがこっちに走ってくる。
「倫っ!」
あ、道孝だ。いつの間にこっちに戻ってきてたの?
ふわりと持ち上げられる感覚。ゆらゆらふわふわして、心地いい。
「道孝……」
そっと目を開けると顎とのどぼとけが見えたけれど、その奥からの太陽の光が眩しくて、私は目を細めた。そうしたら、道孝は私を運びながらゆっくりと見下ろした。
「…………」
道孝じゃない……。それは、甲斐くんだった。甲斐くんの心底心配したような顔がそこにあった。
お腹……痛い。ぐわんぐわんと耳鳴りに目眩も伴って、彼が何を話しているのか、周りがどんな状況なのかも分からない。大きな砂の渦巻きに飲み込まれるように、意識がゆっくり引きずりおろされる。
……なんで?
「…………」
私は細目を閉じて、その浮遊感に身を任せる。腹痛に伴って胸の痛みまで体を蝕んでいくのが分かる。
……なんで、甲斐くんなんだろう。
……なんで、ここに道孝はいないんだろう。
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